スローな快楽とつながり


スローライフという考え方を日本に紹介した第一人者でもある、辻信一さん。
SBSコーチョーの中村さんとも仲良しです。
一緒に『スロービジネス』という本も出しています。
04年SBS府中合宿の講演録より、抜粋して「スローとは何か?」を紹介します。

「スローな快楽とつながり」(04年SBS府中合宿講演より抜粋)
辻信一(ナマケモノ倶楽部世話人・『スローイズビューティフル』著者)

<スローな快楽>
僕は、もともと快楽主義的なんです。快楽主義。あんまりつらく
苦しいことっていうのはあんまり駄目だめなんですね。
あんまり禁欲的に仕事をするとか、努力型でもないですしね、
そんなところから発想してはいるんだけど、僕はこう言いたいと思います。
人間っていうのは何のために生まれてきたのかなっていうと、
皆さんの意見はこれぜひ聞きたいところなんですけど、
僕はやっぱり楽しく、美しく、安らかに、美味しく生きるためだと、
そのために生まれてきた。



そして、ほかの人々も多分そうなんじゃないのかなといつも思っているわけです。
そういうふうに言うとですね、「そりゃあ快楽って、それはいろいろあるじゃないか、
何もゆっくり歩くことだけが快楽じゃないだろう」なんて、
自分は自動車で高速道路を突っ走るのが快楽だって言う人がいるんですね。
僕はそれはそうだと思います。つながりを絶つっていう快楽もあるんですね。
それは僕達がやっぱり生まれ育つ中で身につけてきた快楽の1つだと思うんです。
確かにあるじゃないですか、ずっと人といるときにね、ちょっとつながりを絶って
1人になって、一人旅に出るに出るなんて、そういう快楽もありますよね。

しかし、そんないろんな快楽を持ちながらも、僕達人間っていうのは、
本質的につながる動物なんだというふうに思うわけです。
だから、つながるためには時間がかかりますから、スローなんですよね。
だから、「スロー」っていう言葉が出てきたわけですけども、ちょっと考えてみてください。



アリストテレスっていう哲学者が、人間は社会的動物だって言った。
それは、ほかの動物とやっぱりちょっと違うわけです。
ほかの動物にも社会と言われるようなものはあるんですよ。
社会と呼んでいいんじゃないかな、例えばゴリラの世界っていうのは
一種の社会を、やはりゴリラ的世界を形成しているとも言えるわけです。
しかし、明らかに我々の社会っていうのは違う。それは明らかですね。
まず言語なんていうさっきも言ったこういう複雑なものも介してつくられる
社会だっていうことも違いますし、もっとこう非常に綿密で……。

さて、とすればですね、人間がつながる動物である、
人間は社会的動物だっていうことは、人間は愛する動物だ、
そしてつながる動物だということですね。
そして、人間がつながるのには時間がかかるわけです。

これまでは我々の経済っていうのは前のめりだった。
と同時に、もっともっとなんです。1つの物を持った途端に、
これを否定してその次を想定しなきゃいけない。
これが経済だしビジネスだっていう発想しかなかったわけです。
だから合言葉は「モア・アンド・モア」です。そしてモアっていうのは必ず
モアにつながる。つまり「モア・イズ・モア」だと思っていたわけです。
どういうことかっていうと、物がモア、たくさん生み出されていっていれば、
我々の幸せもモアになる。「モア・イズ・モア」という等式を僕達は信じていたわけです。
そして、僕らはもう今はっきりわかるわけですね。
モアは決してモアではなかったということがわかった。



そして、僕達が犠牲にしてきたもの、物だけではありません。
人と人とのつながりも同じことです。
人と人とのつながりも、もうどんどん希薄になって、
自分にとって一番重要な人とすら、なかなかもう顔が合わせられない。
一緒にご飯も食べられない。やっとのことで食卓に一緒に座ったと思ったら、
みんなテレビを見ている。テレビ見ない人は携帯をやっている。
一体どうしちゃったんでしょうか。
つまり、これまでの経済っていうのは、否定形の経済だって言いましたけど、
同時に反つながり、反社会的な経済なんです。

<つながること、その快楽>
ところで、僕は快楽主義者として思うんですけども、
人間の快楽の一番豊かな泉っていうのは、つながりだと思うんです。
つながりを絶つ、つながりを切る快楽もあります。そういうのも認めます。
全部認めますけど、それにしても僕達の快楽の大元、
一番豊かな泉っていうのはつながりにある。つながることにある。
人と人とのつながりであり、人と自然界との、人と動物とのつながり、
人と物とのつながり、人と自然とのつながりを媒介する道具とのつながり、
人と人とのつながりをつくるための道具もあります。そのつながり。

だから道具が失せていく、人間関係が希薄になっていく、
この「モア・アンド・モア」の社会っていうのは、実は「モア・イズ・レス」の社会なんだ。
レスっていうのは幸せですよ。
物をモア、モア、お金をモア、モアと追いかける社会、この経済は
実は「モア・イズ・レス」、レスってわかりますね、「よりすくない」、の社会だと。

それに対して僕達がこれから構想していかなきゃ、つくり出していかなきゃいけない物語っていうのは、「レス・イズ・モア」です。「レス・イズ・モア」。どんどん引き算していく。
物をどんどんどんどんふやしていって、そして今ある自分、今のここの瞬間、
この場所をどんどん否定して、自己を否定することをいわばエネルギーにして
前へ突き進んでいくというような経済やビジネスを自己肯定の、
そしてつながりの、そしてそのつながりをどんどんどんどん生み出すさまざまな
道具だとか、そのためのツールだとか手段を豊かにつくり出していく。
そういう経済やビジネスをつくり出していかなければいけない。

それがスロービジネスということだと思います。
その領域はほとんど無限に近い、膨大な領域だと思います。
スローなビジネスっていうものの前途はものすごく明るい。

時間が来ましたので、最後に老子の言葉ね、
これは鹿島祥造さんという人が素敵な口語訳をしてますんでそこから。

「たかの知れた自分だけど、社会だってたかの知れた社会なんだ。社会の駒の1つである自分は、いつもあちこち突き飛ばされて前のめりに走っているけれど、そんな自分とは違う自分がいると知ってほしい」

以上

辻さんの講演録の全文はコチラからどうぞ。
「スロービジネスという快楽」(pdf)
スロービジネスクール公式サイト: スローな快楽とつながり
http://www.slowbusiness.org/article.php/200804_slowkey_keiboslow